えみため日記 

日はまた昇る! 言霊のさきはふ國 神づまり坐すこの國に 生まれたことのしあはせを♪

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 文章教室の先生から、愚作が添削されて返つてきました。ワタクシのコトバぐせをすべて直されて真ッ赤になつた文面みて、これぢやワタシが書く意味ないぢやん…と落ち込むことしばし

bochan.gif bgenko.gif そこで、しばらく”お写経”(!)してみることにしましたよ(´・ω・`)
 ずっとせんに記事にもしました『直筆で読む坊っちゃん』をひつぱりだしてきました。
 これを一字一句もらさず書き写してみよう、と。
”手習ひ小僧”からやりなほしです。

 夏の鞍馬山で”如法写経会(にょほうしゃきょうえ)”に参加したのを思ひ出します。貞明皇后行啓のおり、ご宿泊所として建てたといふ寝殿造のたてものを道場に、参加者三十名ほどで手分けして法華経を書き写すんです。キモノで参加が条件で、なかには弓道の稽古着の方もいてカッコよかつたなあ(^^)
 一心にかきうつす、といふ”儀式”で、なにかがあたらしくなるやうな、あの感じをもとめてやつてみるですよ。”あの感じ”といふ、過去の体験の再現をもとめてゐる時点ですでにアウト、な感なきにしもあらずなのだけど(´・ω・`)
sosekimodel.gif
 どうせなら、と原稿用紙も手づくりしてみた。ゆうても図形描画ソフトゆうやつで(^^) 漱石先生ご使用のタテ二十四文字で二十四行、五百七十六字詰めの松屋製原稿用紙に似せてみました。”復刻原稿用紙・漱石モデル”なんちて売つちまはうかなあ(^^); 買うヒトゐないって…

小説以前…の習作ですが(´・ω・`) おヒマでしたら。
                 オン ザ ラン

「ちっ、つまんねー」
 ぎくりとした。
 声のした方を、ついまともに見ちまった。
 昼下がりの電車内、腰を下ろすか下ろさぬか、下校時の学生たちの声にまじって、その言葉が耳にとびこんだ。
 声の主は、真向かいに坐っていた。
 いまどき珍しいセーラー服の、スカートだけはエラくみじかくしてある。
 裾から出た脚はカモシカみたいな女子高生だ。
 手に持ってた文庫本を、隣りの灰色ブレザーの女子の膝に投げるように寄越す。
 その表紙は。オレの出たばかりの書き下ろしファンタスティック銀河文庫、
『らじかる☆マジカル☆あいろにかる☆シティー』だ!
 つ、つまんねー?
 あやうく声に出しそうになった。
 落ち着け。つとめて自分にいいきかせた。
「自分が作者だが、どこが『つまんね』かったのか、忌憚のないところを聞かせてくれ」
とでもいうつもりか。それはできない相談だ…。
 
 オレのペンネームは「麻月りお」という。
 生年月日も顔写真も公表せず、「女性」設定てことにしてある。
「そのほうがセンセイの作品世界を壊さなくてすむと思うんですよね」
という編集福迫の案による。
 イヤなら却下すればすんだんだが、それも一理あるなとオレは思った。
 勤めのかたわらSF小説をかきつづけ、いつかは斯界の最高峰、ギャラクティカ大賞を狙うぞ…!との野心を胸にあたためてきた。
 が、ある日福迫はオレに
「思い切って対象年齢を、うんと下げてみては?」と提案した。
「きょうびSFプロパーにこだわる必要もないと思うんですよね。需要を考えますと…」
「オレの書くもんには需要がないのか」
 福迫は苦笑いを浮かべる。
 
 福迫はオレが大学時代、SF研で同人活動をしていたころからの知り合いだ。
 在学中に天川書房の月刊誌「SF銀河」に寄せた短編が掲載されて、オレは有頂天になった。いよいよオレも、銀河につらなる星のひとつになった!…
「就職活動中なんでしょ? ちゃんとお勤めしてくださいね」
 と福迫はくどいくらいに念を押した。そうか、そんな甘いもんではないのか。やや正気に返ったオレは、最後にひっかかった地方銀行に就職した。
 いつかはオレも筆一本で!
 のはずだったが。オレの書くものはどうも反響がいまひとつだった。おなじころに書きはじめた作家のなかでは、作品集がでるのが一番遅かった。
 今度こそ。これぞSF本流!と大向こうを唸らせる!
 つもりで連載をはじめた「銀河創世記」だったが、反響を気にする以前に、回を追うごとに書くことが辛くなっていった。
 焦りを感じ出したオレに、福迫はジュブナイルへの転向をすすめたのだった。
 
 で、オレはSF作家としてのペンネームのほかに「麻月りお」なる源氏名を名乗るはめになったのだ。なに、これもいっとき世を忍ぶ仮の姿、いつかは本流に還るのだ…。
 これはお遊びなんだと思うと、「星のひとつ」として恥じぬようとか「SFプロパー」「本流」として云々の縛りがとれて、いくらでも筆がすすんだ。
 破天荒な超能力少女が好き放題をやらかす「らじかる☆マジカル」シリーズは、それまでのオレの総売上部数を、十分の一の期間であっさり抜いた。「らじ☆マジ!」と略してテレビアニメになり、雑誌連載のマンガにもなり、オレは銀行勤めを辞めた。
「ちょっと気が早いんじゃないですかねえ」
 このときも福迫はケチをつけた。石橋が落ちるまで叩いて、ホラやっぱり渡らなくてよかったと言うヤツだ。
 もうそろそろいいだろう。
 オレには「麻月りお」がつくった貯金がある。安心して、本流に帰ればいいのだ。
 そう考えていた矢先だった。
「つまんねー」が耳に刺さった。
 この感じを何にたとえたらいいか。と思うと、子どもの頃の海水浴の情景がうかんだ。
 波に浮いている感じ、肌を焼く陽射しの暑さまで感じたと思った。ふいに、掴まっていた浮き輪の空気がぬけて、ふにゃふにゃとなる…。
 何だ、縁起でもない。
 オレは連想のもやをはらいのけ、もういちど目の前のカモシカを注視した。

 女子高生は三人だった。
 セーラー服のカモシカは、肌の色はやや浅黒い。髪は染めると言うより脱色したような、金髪に近いあかるい茶色だ。よく学校が許してるな…。肩まで落ちる髪は、ライオンのたてがみを思わせた。いや、ライオンを連想させるのは、髪ばかりでなく眼の光かもしれない。この年頃のオンナコドモは、よく野の獣に近いものを感じさせるが、こいつのはそれが図抜けている。頭はライオン、脚はカモシカ、ってそれどんなキマイラだ。
 だが、みていて不快というのでない。動物園の檻越しに、しなやかで獰猛な生き物をみるような、わくわく感があって…つまり、何だ、とても美しかったのだ。
 灰色のブレザーに赤い格子柄のプリーツスカートを履いた子は、それよりずっと「人慣れ」した生き物にみえた。動物にたとえるなら、ラマとか羊とか、大きな黒い眼をした草食動物のイメージだ。ライオン/カモシカ娘は長い脚を高々と組み、ハイカットを履いた足をぶらぶらさせて、ラマ少女は目元を微笑みのかたちにして、たのしそうにしゃべっている。そもそもこのおとなしそうな子とライカモが、学校も同じでないらしいのに、どうして知り合いになったのかが想像しづらい。が、オレ的にはなんだかとても似合いのコンビのように思えるから不思議だ…
 もう一人は、坐る二人の横、扉の前に立っていて、学校の制服というよりは喪服のような上下にストッキングも靴も黒といういでたち、髪はストレートで腰まで届くかという長さ。めったにお目にかからないタイプだ。女子高生と一緒にいるからそうと思っただけで、高校生ではないかもしれない。目鼻立ちは整っていて、大きな眼はライカモとは違った意味で迫力がある。占い師なんかやらせたら受けるかもしれない…
 などと観察にふけってしまったが、この間時間にして五秒とかかっていない。職業柄というか、電車に乗ると、オレの書くものの登場人物や購買層にちかい年頃の娘を観察するのが習慣になってしまっている。「職業上の必要」というところ、極太の字体で強調入れたい。あらぬ誤解を招いて、それでもオレはやってない!と叫びながらしょっぴかれる事態だけは避けねばならないからだ。
 だが、避けたつもりでも向うからふりかかってくることがある。
「あア? 何見てんだコラ!」
 ライオンが牙を剥いた。

 車内の話し声が、ひたと止んだ。
 周囲の視線がぎゅっと降り注いだ気がして、頭に血が上るのを感じた。
「ラノベ作家『麻月りお』本名井田孝志(35)、迷惑防止条例違反で逮捕――」の見出しが脳裏に躍る。オレ程度だとどのくらいの大きさか? 社会面の下の方に名刺大てとこか? アニメのスポンサーを怒らせたらどうなる――などとしょうもないことを考える。
 いかんいかん! いまそこにある危機に対応しろオレ。
 とりあえず、なんでもないんだと判らせる、穏便に…
「気に障ったらごめん、つい目がいっただけなんだ」
 それで一瞬の緊張はほどけて、また車内のざわめきがもどる。
 とオレは思った。
「はアふざけんな? てめーの都合なんか聞いてねー!」
 怒気を放って、ライオンが立ち上がった。
 わ、わ、わっ、どどどうするどうするよ?
 天の佑けか、電車が停まって扉がひらいた。降りる予定の駅ではないが、ともかくこの場をやりすごすことだ。ホームに降りてひと安心…と、後ろを見るとあろうことか、ライオンも降りてあとを追ってくるではないか!
 こいつも降りるところだったのか? ライオンはたてがみ振り立てて、
「待てつってんだろ、あ?」と追跡の意志を明確にする。
 ライオンの後ろから、グレーのラマも黒づくめも追ってくる。
 なんなんだよ!
 追うから逃げるのか、逃げるから追うのか。
 判らんがとにかくここは逃げなきゃあ!

 ―それとも第三者のいるところで、冷静に話し合うべきか。
 ホームから駅の階段を二段抜かしに駆け上がりながら〇・一秒くらい考えた。
 駅員室へ駆け込んで、「すみません、女子高生に因縁つけられて追われてるんです」
と説明するオレ、を次の〇・一秒で思い浮かべたのち、光の速さで却下した。
 何人かにぶつかり、怒声をあびながらなんとか出口をでたオレ。
 おなじような悶着をライオンも、いやもっと派手に起こしていそうなものだが、オレの後に道は出来る、で抵抗なく進んでいるのか、その気配はない。
 いや後ろを気にしている場合ではない。
 とにかく人ごみへ、なんとか撒いてしまうんだ!
 初めて降りる駅は川岸に面していて、岸一帯は桜並木が植えられてちょっとした花見どころになっている。こっちへもぐりこめば花見客にまぎれて逃げられるはずだ。
 とオレは思った。
 が… 期待したほどの人波はない。
 むせかえるほどの桜色がひろがっているだけだ。
 困ったな。困ったぞ。
 みたこともない映画「北北西へ進路を取れ」の一シーンがうかんだ。本かなんかで見た白黒の写真だ。主演のオッサンが、身を隠すところもない原っぱかなんかで、飛行機かなんかに追いかけられるところがあったんだっけ? ってどうしてオレは切羽詰まれば詰まるほどいらんことを考えるアタマにできてるんだろうか。
 走りながら肩越しにうしろをうかがってみた。
 ??いない??
 血に飢えた肉食獣が、背後に迫っているかと思えば…いねーじゃん?
 なんだ、あきらめたのかア、そうだよな。あー大汗かいて損した!
 走るのをやめて息を継いでるところへ、
「気イ抜いてんじゃねえぞコラ」
 ライオンの咆哮が降ってきた。
 両手を腰に余裕綽々、水飲み場の四角いコンクリートに乗ってオレを見下ろしている。
 ぎゃっ。
 いつのまに。超能力者か忍術使いか。
 あわあわあわ、となさけない音が意志に反して口から出た。
 これを不随意運動というのだろうか、オレの両手はやみくもに宙を掻き、身体の方向転換を助けようとするらしかった。
 もつれてころんで、いっそはやく楽になりたいと訴える両脚を叱咤して、ともかくも、オレは走り出した。
「RUN!」
 掛け声なのか命令なのか、誰のともつかぬ声がはじけた。

 走る、走る。
 走りながら考える。
 男の脚でも振り切れないジョシコーセーって何者だ。
 そうだ、なにも走ることにこだわらなくていいじゃないか。目的は、あのライオンから離れればいいんだから。道路に上がって駅近くにいけば、クルマが拾えるはずだ。
 階段をみつけて駆け上がる。かなり疲れてきて、一段一段よろよろと上がる。
 と、目は「タクシー乗り場」を求めてすばやく四方をスキャンする。
 あった!
 うまいぐあいに客待ちのタクシーが五、六台ならんでいた。
 運転手たちがタバコをふかしながら立ち話をしている。
 ああやれやれ、助かったぞ…。
 先頭のクルマに近づきながら「すみません」と声をかけた、
 運転手が振り返るより早く、何かの影がルーフに飛び乗った。
「先が読め過ぎなんだよ!」
 とライオンが肩をそびやかす。
「わあっ!」
 口から心臓出るかと思った。
 たく、なんだってそう、高いところに乗りたがるんだ。ネコ科だからか? 橋のたもとかデパートの前でやってろよ!
 毒づきながらもよろよろと、ふたたびオレは走り出す。

 足がおのずと向いてしまうのか、それとも羊が牧羊犬に追われるように、繁華な方へ行かせまいと追い込まれてしまったのか。気がつくと、また川岸の公園をオレはさまよっているのだ。なんなんだよ。なんなんだ… まともな思考を組み立てることもできず、ただ足の動くにまかせているが、それもまもなくガス欠を起こしそうだった。
 と、眼の前に船着き場があって、木造の小屋に「貸しボート」の看板がでている。
 こんなところ、あったっけか? なにやら昭和のかほりがするぞ…。
 とっ、とにかく走らないですむのなら。
 オレは倒れ込むように、船着き場に駆け寄った。
 貸しボート屋の主人だか店番だかが出てきそうなものなのに、誰もいない。
 なのにボートにすでに乗っている人間がいる。
 ら、ライオン??
 一瞬焦ったが、舟にいたのはグレーのラマだった。
 ああよかった…って、よくないよくない! こいつはあいつのお友達じゃねえか!
 だったらライオンも近くに?とキョロキョロしたが、とりあえず近くにはいない。
「???」
 いぶかっていると、ボートのラマ子が声をかけてきた。
「乗らないの?」
「えっ…?」
「逃げてるんでしょ?」
「え、ああ… そうだ、きみの友達!」
 わずかながら休息をとったせいか、ようやく思考力がもどってきた。
 そうだ。この子を介して、コミュニケーションをはかるという手がある。
「なんであんな剣幕なんだろう? ボクがそんなに気に障るようなことをしたか?」
 電車の中でみた微笑みと、変わらぬ表情にみえた。こちらは、気分のアップダウンのすくないおだやかな性格なのだろう。
「きみはすぐそばで見てたんだからわかるだろ? あまりにも理不尽な怒りようだと思わないか? きみはまともに話のできる人らしいから頼むんだが、友達に言ってやってくれないだろうか?」
「なんて?」 
「なんてって… その、もうすこし落ち着いて話をきいてやったら、とかさ」
「さあ…」
「さ、さあ?」
 しまった、オレの見込み違いだったか? 一見友好的な微笑みをうかべてはいるが…
やっぱり類友、ってヤツなのか? 
 オレはまじまじとラマ子の顔をみた。弓なりにしなう切れ込みの、中の瞳は考え深そうでもあり、なにも考えてなさそうでもあり…この状況をおもしろがってでもいるような光がちらちらしている。おとなしい、どころか…これでなかなか曲者なのかもしれない。
「羊サンこそ、落ち着いたら?」
「羊さん??」
「ラマ子のお返し」
「!」
 くすくす笑う目元をみつめながら、それこそアゴがはずれるくらいオレは驚愕した。
「羊ってさ」言いながらラマ子はボートをもやう綱をはずし、櫂を手にした。
「すっごい恐がりで、すぐパニクって走りだすの」
「ま、待ってくれ!」
 オレは舟のへりをつかみ、引き込まれるようにラマ子の向かいに腰を下ろした。
 ボートはゆっくり岸を離れる。

 両岸の、花ざかりの木々。
 風はやわらかく、川面には花びらがただよう。
 ボートに女子高生と二人、春の川をのんびり下る。
 なかなかに得難い機会なのだが、あいにくそれを堪能するには心に余裕がなさすぎた。
 頭のなかには?が隊伍を組んで行進している。
「その…なにから聞いたらいいか…きみは」
「あったし~はラマ子~♪」
 ひっ。
「ラマのお目々~まっくろ~♪」
 何を思ったのか、ラマ子は節をつけて歌い出す。
 オレは全身全霊をもって抗った。はずみでボートが大きくかしぐ。
「やめてくれ。そんな、あんまりにもシュールすぎる。頼む、神経が、ちぎれそうだ」
 おとなしくラマ子は歌をやめた。が、笑う目元には、まだ光がざわざわしている…
「なにを聞きたいのか知らないけど」
 ゆったりオールを動かしながら、のんきな口調でラマ子が言う。
 ほんとに知らないのか。じつは知ってるんじゃないのか。口から出る前の質問まで…
「羊サンが知らないんだとしたら、知ってる人はいないと思う」
 どういうことだ?と聞き返そうとすると、
「何ぼっとしてんだ!」
 覚えのある声にどやされた。
 あわてて目をやると、岸にライオンがいて、ボートに並走している。
 うわ、やば! あの化けネコならジャンプ一閃、飛び移りかねない。
 が…様子がヘンだ。
 なにやら真剣な面持ちで、流れの行く先を指差している。
 みると、川床に段差があった。その段になったところのすぐ手前に、大きな排水口がぽっかりあいていて、馬鹿にならない量の水が吐き出されている。
 ここ二、三日雨だったからな…ってことは、あの排水に流されて段差にさしかかれば、
木の葉のようなボートはひとたまりもないということだ!
「この先段差だ! 流されてるじゃないか。漕ぐ力がたりないんだ。ボクが替わる!」
 おんなのこに漕がせてぼおっとしていたオレが間抜けだった。
 急いで場所を替わってオールを握り、排水口と反対側の岸へ舳先を向ける。
 つもりだが、焦っているのでなかなか思うように行かない。
 オレが悪戦苦闘している最中も、ラマ子のほうはいたって平静、春風駘蕩泰然自若、木の葉舟の行く末など他人事のように
「これにも、こういう場面あったよね」とポケットから文庫本を取り出した。
「え……」
 つまんねー、とライオンが吐き捨て、ラマ子の膝に投げ出した、オレの新刊『らじかる☆マジカル☆あいろにかる☆シティー』だ。そうだ、これがそもそもの発端だった…
「よくあるよね、川で絶体絶命、って。映画といわずアニメといわず…」
 いま、その絶体絶命なんだが!
「あとにしてくれ、いまそれどころでないのが…」
 しかしラマ子はオレの抗議も上の空で、
「ボートでふたり、川に流されてって、『SF銀河』の御大、堤センセイの本にもあったよね?」
「う……」
 ぐうの音も出ない。たしかにそうだ。
 若かりし、っていまも気持ちは若いつもりだが、オレが熱狂した堤正嶤先生の初期の中編『逃走と追撃のルンバ』、あれが書いてる間、アタマのどこかで鳴り響いていた…。
 あの場面のときも、自覚はあったかもしれない。
 だが、流された。
 もう、いいんだ。遊びは終わりだ。オレは還るんだから。
 そういう気持ちばかりが先に立った。
「悲しいよ」
 えっ! 思いもかけないことばに、時間が止まった。
「あたしたちとは、もう遊ばない、ってこと」
 なぜ、そんなことを言う…
 しかし現実の水の流れが止まるわけではなく、我を忘れたオレの手からオールが離れ、
 舟は手もなく流された。
 ごおごおと鳴る水音と、ライオンの「ばかやろー!」の声がひとつになった。

「???」
 なんだ? ここはどこだ?
 チリチリ、パチパチ…という耳障りな音を感じて目を開けた。
「あら、残念… せっかくあたしがいま目覚ましを」
 黒づくめの女が眼の前に、スタンガンを手にしてにやりとしている。
「わ、わっ、何をする」
 オレは黒づくめから離れようとして身をもがいた。
「あたしだって持ちたくなかったわ、こんな無粋なもの。でも持たせたのは他ならぬアナタですからね」
 そうだ。ようやくのみこめた。
 この黒づくめは「ラグート」だ。
 オレの「らじかる☆マジカル」シリーズで、敵役として跳梁跋扈している、底意地の悪い美人召喚士だ。毎回オレなりに趣向を凝らした魔神を呼び出させて暴れ回らせたが、こんどの新刊ではただの小悪党になりさがってしまって、さぞ恨めしかったにちがいない。
 するとあとのふたりは…。
 にこにこしながら立っているラマ子は「ゆま」。
「腰までしかない川でよかったな」
 と苦笑いしているライオンは、ヒロインの「朱夏」だ――
―ハンパなくワガママだけど、キレイでつよくって、やるときはやる朱夏が大好きデス! りお先生、これからも朱夏のお話いっぱい書いてくださいね!
 おれが生まれて初めて貰ったファンレターというものの一節がうかぶ。
 そうなんだ、これをもらったのはオレじゃなくて、こいつ…朱夏だったんだよな。
「オレはいったい…?」
「朱夏が飛び込んで助けてくれたのよ」
 とゆま。いっしょに水に落ちたはずだが、立ち直りがはやいのか鈍いだけなのか、何もなかったようにふんわり笑っている。
 そうだ、これが「ゆま」なんだ。
 ゆまも朱夏も、髪がわずかに湿っているようにみえるが、濡れ鼠というわけではない。
 水に落ちても風の一吹きでたちまち衣装が乾いてしまう、ディズニーの「白雪姫」を思い出した。ここは現実の物理法則からはずれた不思議の国か? ゆまたちの背後には、だいぶ傾いた陽をうけて朱がかった桜がみえているのだが…
「センセイったら、水につかるなり気を失っちゃうんだから。なんてお気楽で他力本願なの?」ゆまにお気楽と言われてしまうのかオレ。
「面目ない…。きみは『ゆま』で、助けてくれたのが『朱夏』で…って、かつがれてるんじゃないだろうな? きみらは『らじ☆マジ!』のコスプレしてる、なんてことはないんだろうな?」 
 オレはあらためて目の前の娘たちをみた。
 朱夏の輝かしい金茶のたてがみ、射るような眼。
 ゆまのくろぐろとした瞳、絶えることのない笑み。
 ラグートのみどりの虹彩は、角度によって何色にもみえた。変転常なき心を映して…
 完璧だ。
 これほどのコスチュームプレイはありえない。騙されたとしても本望だ。
「だけど、なぜ、この世界に――」
「って聞かれる前に、あたしたちが聞きたいわ。生みの親のセンセイが、あたしたちを見て判らないってどういうことなのかと小一時間」
 ラグートが、さも寒心に堪えないというように、眼を細めてオレを見る。
「そうなんだ。いつのまにかアニメの絵姿が刷り込まれていたんだな。第一巻から挿絵を描いてくれてる人がアニメのキャラデザインもしていて… ってか、無理だろ普通! そうんなふうに生身をそなえて眼の前にあらわれるなんてことがそもそも絶無なんだから」
「生身」ということばの生々しさが、一拍遅れて感情をゆさぶった。
 ありえないことが、どうして――
 朱夏が苦笑いしながら首を振って、
「リクツはどうとでも好きに考えな。ウチらは『おはなしの呪文』によばれて、そっちの世界に姿をみせる。『遊びごころ』の呼び出しには逆らえないことになってるのさ」
 ヘタな関西弁をときどきはさむのは、オレが朱夏に与えたクセだ。
 ううむとオレは唸った。
「いまのきみらはまるで現実のニンゲンだが…」
「そう思い込んでるニンゲンが現実にいる、ってことだな。約一名」
 三人の娘たちははじけるように笑った。
「だがな」
 朱夏がにわかにまじめくさった顔つきになった。
「こいつはちょっと、許せねえ」
 水にふやけてぶかぶかになった「らじかる☆マジカル」をぽんと投げ出した。
「言ってることは、判るよな?」
「……」
 一言もない。
「やるんなら、本気で遊べ。このタコ!」
 落雷のような一言を放ったかと思うと、三人が立っていた空間が、奇妙に歪んだ。
「???」
 急いで眼をしばたたいた。
 いない! たったいままで、ここにいたのに!
「どこだ? 朱夏! ゆま――」
 立ち上がろうとしたが、立ち上がれない。
 見ると右の足先が、ありえない方向を向いていた。
 なんだ? オレは怪我して…? と思うや否や、耐えがたい激痛が襲った。

 川縁で痛みにのたうっているオレをみつけたのは、この日もともと会う約束をしていた
編集者の福迫美和だった。オレが血相変えて公園をかけまわっていると知らせてくれた人がいたらしい。この日オレはどれだけの恥をふりまいて歩いたことか。思うだに背筋が寒くなる。福迫さんが駆けつけた時には、まさに天使の訪れにみえた…
 いま退院してウチに戻っているが、右足をギブスで固めて不自由を強いられているオレに、福迫さんはあれこれ気を遣ってくれている。
「こんなときに、こんな話もなんですけれど」
 とある午後、福迫さんは切り出した。
「『あいろにかる』の評判が思わしくありません」
 オレは頭を掻いた。
「判ってます。悪かったと思ってます。あんな書き方して…」
 福迫さんは拍子抜けしたような顔をした。
「それと、お申し越しの件ですが」
 「本流」に還ることを念願していたオレは、「銀河創世記」の続編を書かせてくれと頼んでいた。
「却下です」にべもなく福迫編集者は言った。
「編集会議にかけるまでもなく」
 オレは黙って聞いていた。
「前に先生に、若年向けへ転向されてはと申し上げましたよね。あれがギリギリのタイミングでした。実はあのときすでに…」
 「銀河創世記」の打ち切りはもとより、そのつぎの依頼もないだろうことも決まっていたのだと、福迫さんは言いにくいことを言ってくれた。
「でも、先生は鉱脈をみつけられました。それも一度で。これが書き手としてどんなに幸運なことか――」
 妙なもんだ。少し前まで、この福迫女史のいうことがすんなり耳に入ったことはなかったのに…。
「そうして、先生はみずから逃げ道を閉ざされた」
「勤めのことですか。あなたの忠告を無にしてね。でもまあ、いまさらどうこう言っても始まらないことですしね」
 つとめてサバサバした声を出そうとするのが我ながらわびしい。
「でも、なんだかさっぱりした、といったら強がりが過ぎますかね」
 福迫さんは無言で微笑んだ。
 風が散り残りの花びらを運んできた。
 ふと、あの桜並木をたてがみをなびかせて走る朱夏の姿がうかんだ。
 あの絵……どんな物語がふさわしいだろう?
 そうだ…。
「福迫さん、紙ください」
「ハナ紙ですか?」
「書く紙!」
 
 風に混じって、ライオンの高笑いがかすかに聞こえた。
 
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